※本記事の初出は2015年ですが、旧インコタームズ2010に基づいた記述を、最新版(2020年改訂)を踏まえて一部リライトしました。
輸入製品価格に直結する代表的な受け渡し条件3つ
輸入にかかるコストは、商品の製造原価だけではありません。出荷地での現地輸送費、港までの手数料、国際運賃(船代や航空運賃)、保険料、荷下ろし費用、国内配送費などが積み重なり、最終的な「輸入製品価格」となります。どのコストを売り手が負担し、どの部分を買い手が負担するかは、インコタームズで定められた「受け渡し条件」によって明確化されており、見積もり価格の意味を理解する上で不可欠です。
受け渡し条件には多数の種類がありますが、小口輸入や比較的シンプルな取引において頻出する代表的な3つ(FOB価格、CFR価格、CIF価格)を把握することで、実務上の価格交渉・予算管理に十分対応できます。
なお、インコタームズの全体像や、2020年改訂での主要な変更点については、以下の記事で詳しく解説しています。
▶ インコタームズ2020で定められた最新の取引条件とは。変更点も解説
FOB(Free on Board)価格とは
FOB価格とは、本船積み込み渡し条件のことを指し、輸出者(売り手)が港で貨物を本船に積み込むまでの費用を負担し、それ以降(国際運賃、保険、荷下ろし費用、国内配送費など)は輸入者(買い手)の負担となる取引条件です。
たとえば「FOB USD 10.00」と見積書に記載されていた場合、それは「工場から港まで+積み込み費用は込みで10ドルだが、それ以降は買い手の負担です」という意味になります。輸入者はこのFOB価格に加え、国際輸送費(船代)、港湾費用、海上保険、港から倉庫までの陸送費などを別途見積もり、総合的な輸入製品価格を算出する必要があります。
CFR(Cost and Freight)価格とは
CFR価格は「運賃込み条件」と呼ばれ、輸出者が本船への積み込み+船代までを負担する形式です。弊社の経験上、日本では「C&F」という表記で示されることの方が多く見られます。
輸入者は、港での荷下ろし、海上保険(任意)、通関費用、国内配送費などを負担する必要があります。FOBよりは輸出者の負担が多いものの、海上保険は含まれていない点には注意が必要です。
CIF(Cost, Insurance and Freight)価格とは
CIF価格は、CFR条件にさらに保険料を輸出者が負担する形で、最も包括的な「輸入者に優しい」条件とされます。
ただし、弊社の実務経験上、小規模な輸入取引では、CIF価格で提示されるケースはそれほど多くなく、FOBまたはCFRでの見積もりが主流です。その理由として、海上保険をどの程度のカバー範囲でかけるかは買い手側の判断による場合が多いためです。
図解:費用負担とリスク移転
項目 | FOB | CFR | CIF |
---|---|---|---|
現地輸送費(工場→港) | 売主 | 売主 | 売主 |
輸出通関費 | 売主 | 売主 | 売主 |
船積み費用 | 売主 | 売主 | 売主 |
国際運賃(海上輸送) | 買主 | 売主 | 売主 |
海上保険料 | 買主(任意) | 買主(任意) | 売主 |
輸入通関費 | 買主 | 買主 | 買主 |
国内配送費(港→倉庫) | 買主 | 買主 | 買主 |
リスク移転のタイミング | 本船積み込み時 | 本船積み込み時 | 本船積み込み時 |
※ 売主=輸出者負担、買主=輸入者負担
受け渡し条件は税額の計算に重要な要素でもある
税関が関税などを算出する上で、受け渡し条件は重要な基準となります。なぜなら、課税対象額には船代などの運賃も入れなければならないからです。貿易書類の中で、「FOBなのに運賃が記載されていない」「C&Fなのに運賃が記載されている」などがあった場合は、通関手続きで保留になってしまって時間をロスすることがあります。またこちらはそれを理解していても、輸出者側でいいかげんな書類を作られてしまって、輸入通関で追加書類を求められることがあります。
当社で国際クーリエサービスを利用した輸入の際に実際にあった出来事ですが、FOB価格を米ドル建てで書いてあったにも関わらず、工場側が運賃を中国元建てで記載してしまい、課税対象額がとんでもない金額になったことがありました(→運賃が日本円で6万円程度だったにも関わらず、米ドルで運賃を書くべきところを中国元で書いたために40万円以上になってしまっていました(笑))。もちろん修正申告しましたが、手間も時間的なロスも発生してしまいます。
輸出者が貨物を出荷する前に、輸出者側と貿易書類の記載事項などを打合せておくのが理想ですね。
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