インコタームズ2020で定められた最新の取引条件とは。変更点も解説

インコタームズ(Incoterms)は、国際貿易におけるトラブルを防ぎ、取引を円滑に進めるために欠かせない国際的なルールです。そして、2020年に改訂された最新版「インコタームズ2020」では、時代の変化に対応した内容が追加・変更されています。このため、本記事では、実務で役立つ観点から、インコタームズ2020の基本から変更点、活用法までを丁寧に解説します。

インコタームズ2020とは

インコタームズ(Incoterms)は「International Commercial Terms」の略で、国際商業会議所(ICC)が定める国際取引のルールです。国際売買契約において、売主と買主の間での責任、費用負担、リスク移転の時点を明確にするために使われます。

たとえば、輸送途中で貨物が損傷した場合、その責任が売主にあるのか買主にあるのかが契約上不明瞭だと、重大なトラブルになります。インコタームズを使えば、こうした不明確さを避けることができるのです。

実務では、インコタームズの用語が以下のような書類で頻繁に登場します:

これらの弊社の記事は、2016年当時の情報を記載していましたが、最新版のインコタームズ2020は、2020年1月1日に発効され、前バージョン(2010年版)からさまざまな改良が施されています。このため、いくつかのこれらの記事にリライトを行いました。

参照元:ICC Incoterms® 2020

インコタームズ2020での貿易条件の概説

あらゆる輸送手段に適用される貿易条件

インコタームズ2020では、以下の7つの条件がすべての輸送手段(陸・海・空・鉄道など)に適用されます:

  • EXW(Ex Works:工場渡し):売主の施設で貨物を引き渡し、それ以降の輸送や通関などの手続きはすべて買主が行います。つまり、リスクは最も早く買主に移転します。
  • FCA(Free Carrier:運送人渡し):売主が合意された場所で貨物を運送人に引き渡すことで責任を果たします。インコタームズ2020では、B/Lへの”on board”記載を希望する買主のニーズに応え、船荷証券の発行方法に柔軟性が加わりました。
  • CPT(Carriage Paid To:輸送費込み):売主が指定地までの運賃を負担しますが、リスクは出荷時に買主へ移転します。
  • CIP(Carriage and Insurance Paid To:輸送費+保険料込み):CPTに加えて、売主が保険も手配します。2020年版では、最低保険条件を従来のICC(C)からICC(A)へ強化することが推奨されました。
  • DAP(Delivered At Place:仕向地持込渡し):売主が指定の場所まで貨物を運び、そこで買主に引き渡します。輸入通関や関税の負担は買主です。
  • DPU(Delivered at Place Unloaded:荷卸し渡し):インコタームズ2020で新設された条件です。DAPとの違いは、荷卸しまでが売主の責任である点です。
  • DDP(Delivered Duty Paid:関税込み持込渡し):売主が輸入通関や関税を含めてすべての負担を負う条件で、最も売主の負担が重い取引条件です。

海上輸送に適用される条件

以下の4つは、海上輸送や内陸水路輸送にのみ適用される条件です:

  • FAS(Free Alongside Ship:船側渡し):指定港で本船の横に貨物を置いた時点で、リスクが買主に移転します。ばら積み貨物などに使われます。
  • FOB(Free On Board:本船渡し):貨物が本船に積まれた時点でリスクが買主に移転します。輸出者が港で貨物を積む手配をするのが一般的です。FOBやCIFの違いは実務でよく混乱するため、しっかり理解しておく必要があります。
  • CFR(Cost and Freight:運賃込み):売主が運賃を支払いますが、リスクは本船に積み込んだ時点で買主に移転します。
  • CIF(Cost, Insurance and Freight:運賃+保険料込み):CFRに加えて、売主が保険をかける必要があります。

インコタームズ2020では、これらの条件に大きな変更はありませんでした。

図解・売り主の責任範囲

インコタームズ2020における売主の責任範囲
項目 EXW FCA CPT CIP DAP DPU DDP FAS FOB CFR CIF
現地輸送費 × ×
輸出地通関費用 ×
保険 × × × × × × × × ×
国際輸送費 × × × ×
輸入地通関費用 × × × × × × × × × ×
輸入地輸送費 × × × × × × × ×

凡例:○ = 売主が負担、× = 買主が負担、◎ = 売主が保険を手配

売り主が全ての責任をカバーする条件は存在しない

インコタームズの中には、売り主が広範な責任を負う条件がありますが、「すべての責任をカバーする唯一の条件」というものは存在しません。最も売り主の負担が大きい条件は「DDP(Delivered Duty Paid)」であり、輸出入通関、関税、国際輸送、現地配送に至るまで、すべて売り主の責任とされています。

しかし、DDP条件には貨物保険の手配義務は含まれていません。保険については、インコタームズ上で義務が定められているのは「CIP」および「CIF」に限られ、これらも輸入通関や関税の負担は売り主には課されていません。

そのため、「売り主がすべての輸送費用・リスク・保険・税金を含めて完全にカバーする」ような条件を設定したい場合は、DDPを基本にしつつ、契約書の中で保険手配の義務を明記することが実務的な解決策となります。

たとえば、以下のような条文を追加することで実質的に「完全カバー」に近づけることができます:

売主はDDP条件に基づき、当該貨物に対しICC(A)条件に準拠した包括保険を手配・付保するものとする。

このように、インコタームズの枠組みだけではカバーしきれない範囲も存在するため、契約書による補足と明確なリスク分担の合意が重要となります。

国際クーリエ輸送とインコタームズの関係

FedEx、DHL、UPSなどの国際クーリエサービスは、ドア・ツー・ドアでの一貫輸送を前提とした物流手段です。そのため、従来のインコタームズで用いられる海上輸送前提の条件(FOBやCIFなど)とは相性がよくありません。国際クーリエを利用する取引では、陸・空を問わず使える条件のうち、リスクやコスト分担が明確な以下の条件がよく使われます。

条件 特徴 クーリエとの相性
DAP(Delivered At Place) 売主が買主指定地まで輸送を手配。
輸入通関・関税は買主負担。
◎ 最も一般的。税金トラブルを回避しやすい。
DDP(Delivered Duty Paid) 輸入通関・関税も含め売主がすべて負担。 ○ 税額が明確な場合に選択される。
CPT(Carriage Paid To) 輸送費は売主負担。
リスクは出荷時に買主へ移転。
△ リスクの移転と実際の配送状況がずれやすく注意が必要。

一方で、EXW(工場渡し)FOB(本船渡し)といった条件は、買主がすべての輸送手配を担う前提となっており、クーリエ配送のような一貫輸送には不向きです。

実務では、DAPを基本に据えるケースが多く、輸入通関や関税の責任範囲についてもトラブル回避のために契約書で明記することが推奨されます。売主が保険まで含めて完全にカバーする場合は、DDP+保険手配の明記が実務的な解決策となります。

インコタームズ2020が規定しない事項

以下はインコタームズの対象外であり、別途契約で明確にする必要があります:

  • 商品の所有権が移転するタイミング
  • 支払い方法や代金の支払期限
  • 品質保証・検品・損害賠償などの法的責任
  • 輸出入規制やライセンスの取得など規制対応
  • 不可抗力(天災や戦争)時の取り扱い

インコタームズの活用ポイント

  • バージョンを明示する
    契約書には必ず「Incoterms 2020」と記載し、旧版との混同を避けます。
  • 引き渡し場所を明確にする
    「FOB Yokohama」のように具体的な地名を含め、曖昧な条件を避けましょう。
  • 契約書や書類全体との整合性を確認する
    インボイス・B/L・L/Cなど全体で条件が一致していることが重要です。
  • 保険範囲の確認
    CIP・CIFで使う保険の内容(ICC A/C)を理解し、必要に応じて拡張を検討します。
  • 社内教育
    営業・物流・経理などの関係者が条件の意味と影響を理解しておくことが必須です。

過去のインコタームズから変わったこと

インコタームズは1936年に初版が制定され、以降ほぼ10年ごとに改定されています。2010年版から2020年版への変更点は次のとおりです:

  • DPUの新設(旧DATを改名し、ターミナル以外も指定可能に)
  • CIPの保険カバー変更(ICC(C)→ICC(A)が推奨)
  • FCA条件でのB/L対応拡張(信用状への対応が容易に)

その他の基礎用語については、輸入ビジネスで知っておくべき貿易用語もぜひご参照ください。

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